2019年と2020年に生まれた短編の詰め合わせ
金曜日の夜十時。雨でも晴れ曇りでも、俺は毎週そこに行く。
『レッツCocoでウォッシュ!』
半年前にオープンしたコインランドリー。ふざけた店名だが最新型の除菌機能付き乾燥機が完備されているのと、自宅から徒歩三分という贅沢すぎる立地条件に絆され、俺はすぐに常連客になった。周辺に単身用のアパートが多いこともあり、雨の日には順番待ちになることもある。だがふいの小春日和となった今日、動いているのは一台だけだった。そしてそこに、彼はいた。
『見惚れる背中』より
新原明久は〝偽善者〟だ。
男だとわかっていて彼を好きになってしまった俺を哀れんでいる。本当は気持ち悪くてしょうがないくせに、必死に俺の気持ちを受け入れようとしている。
ふと、新原がどれくらい〝偽善〟を極めているのか試したくなった。だから、絶叫系は苦手だと知りながら遊園地に連れてきた。「俺、あれ乗りたい」
園内一のスリルと角度とスピードを誇るアトラクションを指差すと、新原は一瞬青ざめて、でもすぐに笑顔を取り繕った。それは、俺が告白した時と同じ顔――〝偽善〟の笑顔。
「いいよ」
「じゃ、行くか」
「うん、行くけどその前に、竹葉」
「なに?」
「これ乗って俺が最後まで叫ばずにいられたら、信じてくれる?」
「なにを?」
「俺もちゃんと竹葉のことが好きだ、って」
『偽善と絶叫』より
俺、紺野先生がだーい好き!
だから毎日、おはようの挨拶は欠かさないんだ!
「こーんーちゃーあーん!」
「うっ……」
「おはよーございます!」「はい、おはよう」
「む……今日も無反応。なんで?」
俺、けっこう際どいトコに抱きついてると思うんだけど。
「先生、慣れちゃった」
「え、うそ! ドキドキしない?」
「しないよ」
「……ホントに?」
「ホント」
「むぅ……」
しまった、頑張りすぎたかもしんない。
『先生、あのね。』より
「年、とったなあ」
「お前もな」
鏡の中で、ふたりの男が笑う。レンタルしたタキシードが微妙に合っていないせいで、全体的になんだかちんちくりんだ。でも、そんなことはどうだっていい。
俺たちの娘が、今日、結婚する。
『新婦父』
『新婦パパ』
席次表に書かれた文字を見て、ふたりして噴き出した。
日本で同性婚が合法化して、早三十年。
俺たちは、記念すべき一組目の同性夫婦だ。
『俺たちが泣いた日』より
ベストセラー作家と編集者の文学的な恋。双子と幼馴染みの明るい三角関係。余命半年と宣告された男と、ポジティブなサラリーマン。若手社長と、見初められた警備員の秘密の関係。妻と離婚し、十年ぶりに生まれ故郷に戻った男。優等生(?)と堅物教師の始まったばかりの恋の駆け引き。
日本初の同性婚カップルの娘が結婚する話。モテるのにいつもフラれる男の初恋。暴君名ご主人様に仕える見習い執事のトキメキ。新婦の兄にかっ攫われるウェディングプランナー……などなど。
「お題」に沿った物語を1時間で執筆するTwitterの「ワンライ企画」で書いた短編や、ショートストーリーを中心にまとめました。BL小説を書き始めて1年目(2019年)と2年目(2020年)に誕生した全61編の記録です。
●表紙/JOHN DOE DESIGN ●発行日/2022年9月10日 ●文字数/約96,000字 ●999円(読み放題/Unlimited対象)
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