2022.09.27 15:00『年下αの劣情(オメガバース)』【年下α×年上Ω】ばかりを集めたオメガバース短編集 円らな瞳。 ムチムチの腕。 モチモチのほっぺ。 こぼれ落ちる涎で潤った唇。 耳が溶けてしまいそうなほど甘い音色で紡ぎ出される喃語。 生まれたての蕾が花開くように咲き誇る笑顔。 まさに、「かわいい……!」 の、宝庫だ。 「今、何ヶ月でしたっけ?」「四ヶ月」「もうそんななんだー、早いね」「目元がそっくり!」 もちろん赤ん坊は可愛いし、それを取り囲む女子たち――と、時々、男子――も、ものすごく可愛い。 だが、可愛いのベクトルが人とは違う方向を向いている尊文は、そんな彼らよりももっと……ずっと……なんなら、世界一可愛い存在を知っていた。「土橋課長」 眉間に皺を寄せたまま、土橋は目線を持ち上げた。直前までパソコ...
2022.09.14 15:00『シャケ茶漬けの誘惑』スパダリ社長×シャイな清掃員「やっと会えたね」 自分の手首を締め上げながら悠然と微笑む男を見上げ、羽衣は咽喉を鳴らした。「な……だ……」 なに。 だれ。 生まれる問いは唇を動かすが、言葉になる前に空気に溶け込んで消えてしまう。 ダークグレーのスリーピーススーツを驚くほどスマートに着こなしたその男は、鋭い視線を羽衣の上で固定したまま一歩距離を詰めてきた。歩幅は控えめだったがただならぬ圧を感じ、羽衣は早々に降参してしまいたくなる。 格上の相手を前に白旗を振り命乞いをするのは、原始時代から人間の脳にプログラムされている防衛本能だ。だから、恥ずかしいことではない。 なにせ不意を突かれた上に、今の羽衣は丸腰なのだ。唯一の頼みの綱であるスティック型の掃除機は、向こ...
2022.09.10 15:00『遅咲きΩのアナコンダ大作戦!(オメガバース)』股間が大蛇なα×発情期のないΩ すべての物事には個人差がある。TVショッピングの「もう手放せませんよね〜」という決まり文句に『※効果には個人差があります』と注意書きが添えられているのもそのためだ。 個人差――それは、平均的なアレやコレやを外れて生きなければならない者たちのために作られた言葉。 そして、若月太陽は、今まさにその〝個人差〟に翻弄されていた。「うっ……あっ……はっ、はぁ……っ」 なりふり構わず飛び込んだ個室の扉が、ガタガタと激しく揺れる。「な、なんでよりによって……今っ……なんだよ……!」 生まれたての子鹿のように震え、とうに限界を超えていた膝がガクンと崩れた。「ひぃっ!」 途端に後ろを不快感が襲い、太陽は悲鳴を上げる。 オメガは発情期になる...
2022.09.09 15:00『一年目と二年目のBL短編集』2019年と2020年に生まれた短編の詰め合わせ 金曜日の夜十時。雨でも晴れ曇りでも、俺は毎週そこに行く。『レッツCocoでウォッシュ!』 半年前にオープンしたコインランドリー。ふざけた店名だが最新型の除菌機能付き乾燥機が完備されているのと、自宅から徒歩三分という贅沢すぎる立地条件に絆され、俺はすぐに常連客になった。周辺に単身用のアパートが多いこともあり、雨の日には順番待ちになることもある。だがふいの小春日和となった今日、動いているのは一台だけだった。 そしてそこに、彼はいた。『見惚れる背中』より 新原明久は〝偽善者〟だ。 男だとわかっていて彼を好きになってしまった俺を哀れんでいる。本当は気持ち悪くてしょうがないくせに、必死に俺の気持ちを受け入れようと...
2022.08.20 15:00『HAREM』VRスコープを通して繋がる再会BL 繁華街の終点で、一人の男が立ち止まった。ライトアップされた店の看板が、男の整った顔立ちを浮き彫りにする。ダークウッドの扉は重かったが、力を込めると軋むことなく動いた。 街の雑踏とは質を異にする静かな空間が、男を迎え入れる。足を踏み入れるなり屈強な男に値踏みするように視線で全身を舐め回されるが、用心棒らしき彼は、ただ先を促すように顎を突き出しただけだった。 初めてのダンジョンに挑む勇者のように身震いしながら、受付カウンターへと足を進める。すると、タブレットの画面を熱心に覗き込んでいた蝶ネクタイの店員が来客に気づき、顔を上げた。「いらっしゃいませ。VRルーム『HAREM』へようこ……そ……」 貼り付けられていた営業スマイ...
2019.11.11 15:00『俺たちの平行線』コンビニ店員×エリートリーマンの笑いと涙とエロスと愛の物語「薄情だな」「えっ?」「同じビルで働いてて定時も同じなのにさっさと帰るなよ」「え、あ、ご、めんなさい……?」 曖昧に謝ると、神崎さんは柔らかく苦笑した。あ、その笑い方もかっこいい……じゃ、なくて。 なんで神崎さんがここにいるんだ? 仕事は? 神崎さんは薄い水色のネクタイをまとめもせず、そのまま鞄に突っ込んだ。端っこが収まり切らずにちょっとはみ出している。改めて見ると、いかにも適当に上着を引っ掛けてとりあえず鞄をひっ掴んで走ってきました、という出で立ちだ。 もしかして、定時と同時に慌てて出てきてくれたんだろうか。俺に会うために? もしかして、神崎さんも同じように思ってくれていたんだろうか。会いたい...