2023.12.27 15:00『愛しき花に、藍のくちづけを(戦国オメガバース)』戦国時代×オメガバース αは〝蝶〟、Ωは〝花〟と呼ばれ、それぞれ男児にのみ発現。屈強な身体に恵まれる蝶は、武家の当主を務め、その蝶の子を産み落とすことが花の男の本懐とされてきました。蝶の男の髪には鮮やかな挿し色が混じり、花の男は、その名の通り、瞳に花のような紋様を持って生まれてくるのが特徴です。『王道【多】世界オメガバースアンソロジー』(2023年4月・甘恋計画)に収録された表題作のほか、書下ろしのスピンオフ的続編2編をまとめました。若き城主(α)×幼馴染みの側室Ω 張り出した縁に立つと、頬を撫でていく風がほんのりと暖かい。たくさんの新しい生命が、芽吹くときを待ちあぐねているのだろう。夜の気配に混じって、時折、濃厚な春の香りが鼻腔をかすめていく。「秀虎...
2022.09.27 15:00『年下αの劣情(オメガバース)』【年下α×年上Ω】ばかりを集めたオメガバース短編集 円らな瞳。 ムチムチの腕。 モチモチのほっぺ。 こぼれ落ちる涎で潤った唇。 耳が溶けてしまいそうなほど甘い音色で紡ぎ出される喃語。 生まれたての蕾が花開くように咲き誇る笑顔。 まさに、「かわいい……!」 の、宝庫だ。 「今、何ヶ月でしたっけ?」「四ヶ月」「もうそんななんだー、早いね」「目元がそっくり!」 もちろん赤ん坊は可愛いし、それを取り囲む女子たち――と、時々、男子――も、ものすごく可愛い。 だが、可愛いのベクトルが人とは違う方向を向いている尊文は、そんな彼らよりももっと……ずっと……なんなら、世界一可愛い存在を知っていた。「土橋課長」 眉間に皺を寄せたまま、土橋は目線を持ち上げた。直前までパソコ...
2022.09.09 15:00『一年目と二年目のBL短編集』2019年と2020年に生まれた短編の詰め合わせ 金曜日の夜十時。雨でも晴れ曇りでも、俺は毎週そこに行く。『レッツCocoでウォッシュ!』 半年前にオープンしたコインランドリー。ふざけた店名だが最新型の除菌機能付き乾燥機が完備されているのと、自宅から徒歩三分という贅沢すぎる立地条件に絆され、俺はすぐに常連客になった。周辺に単身用のアパートが多いこともあり、雨の日には順番待ちになることもある。だがふいの小春日和となった今日、動いているのは一台だけだった。 そしてそこに、彼はいた。『見惚れる背中』より 新原明久は〝偽善者〟だ。 男だとわかっていて彼を好きになってしまった俺を哀れんでいる。本当は気持ち悪くてしょうがないくせに、必死に俺の気持ちを受け入れようと...
2022.09.05 15:00『エサを与えないでください』高校生×高校生のあまずっぱい短編集 悪戯心というのは誰にでもあるモノだと思うのですヨ。でも僕の場合、ちょっとその使い方を間違えたというか。相手を間違えたというか。 一時間前―― 自他ともに認める野球部の敏腕マネージャーの僕は、部長の黒柳さんのサインをもらうべく、書類を持って疾走していました。伊達に黒柳さんと付き合ってるわけじゃないし、きっといるだろうな~とある程度の確信を持って、中庭に行ったわけです。でもまさか、黒柳さんがあんなことをしているとは思わなかったのですヨ。 だからある意味では、黒柳さんにも責任があるのです。だって人間は、意外性とかギャップに激弱な生き物なのですから! 黒柳さんは僕の一個上の先輩で、野球部の部長で、キャッチャーで、動物に例...
2022.09.04 15:00『幼きころ、大好きだったあの人は』戦国時代を懸命に生きた男たちの物語 ホーホケキョ。遠くで、鶯が鳴いた。 見上げた空が、紅色の息吹を纏ったたくさんの枝葉に縁どられている。雪解け水は小川のせせらぎとなって耳を癒やし、頬を撫でる風はほんのりと温かい。新しい季節が、もうすぐそこまでやってきていた。 乾いた空気を吸い胸を膨らませると、結わえた髪の先がふわりと揺れた。ふむ……と口先を尖らせ、しばし思案する。頭の中を駆け巡る言の葉をかき集め、生み出される響きを反芻した。「鶯の鳴きて見つめし春空の、青き思いに心弾みし」 ホーホケキョ。応えるように、鶯がまた鳴いた。 褒められたのか、けなされたのか。きっと後者だろうと見繕い、正直な春の使者を讃え、微笑んだ。「桜天兄上!」 けたたましい声が城の廊下に響き...
2022.08.20 15:00『HAREM』VRスコープを通して繋がる再会BL 繁華街の終点で、一人の男が立ち止まった。ライトアップされた店の看板が、男の整った顔立ちを浮き彫りにする。ダークウッドの扉は重かったが、力を込めると軋むことなく動いた。 街の雑踏とは質を異にする静かな空間が、男を迎え入れる。足を踏み入れるなり屈強な男に値踏みするように視線で全身を舐め回されるが、用心棒らしき彼は、ただ先を促すように顎を突き出しただけだった。 初めてのダンジョンに挑む勇者のように身震いしながら、受付カウンターへと足を進める。すると、タブレットの画面を熱心に覗き込んでいた蝶ネクタイの店員が来客に気づき、顔を上げた。「いらっしゃいませ。VRルーム『HAREM』へようこ……そ……」 貼り付けられていた営業スマイ...