2023.12.27 15:00『愛しき花に、藍のくちづけを(戦国オメガバース)』戦国時代×オメガバース αは〝蝶〟、Ωは〝花〟と呼ばれ、それぞれ男児にのみ発現。屈強な身体に恵まれる蝶は、武家の当主を務め、その蝶の子を産み落とすことが花の男の本懐とされてきました。蝶の男の髪には鮮やかな挿し色が混じり、花の男は、その名の通り、瞳に花のような紋様を持って生まれてくるのが特徴です。『王道【多】世界オメガバースアンソロジー』(2023年4月・甘恋計画)に収録された表題作のほか、書下ろしのスピンオフ的続編2編をまとめました。若き城主(α)×幼馴染みの側室Ω 張り出した縁に立つと、頬を撫でていく風がほんのりと暖かい。たくさんの新しい生命が、芽吹くときを待ちあぐねているのだろう。夜の気配に混じって、時折、濃厚な春の香りが鼻腔をかすめていく。「秀虎...
2023.01.11 15:00『手出し無用!』百戦錬磨なヤンキー先輩×健気なアホの子の〝手出し無用!〟な純愛BL 山本珠莉の人生は、薔薇色だ。 青い空、白い雲。 子どもがクレヨンで塗りつぶしたような水色が、今日も良い一日になると教えてくれる。深呼吸すると、若葉の息吹に満ちた爽やかな空気で肺がいっぱいに膨らんだ。 両手を突き上げて伸びをすると、制服がガサゴソと音を立てた。学ランは窮屈だしすでに暑苦しくもあるけれど、あと一週間もすれば衣替えだ。やがて訪れる梅雨を乗り越えれば、いよいよ本格的な夏がやって来る。 七夕、プール開き、花火大会、盆踊り、キャンプ、肝試し、川遊び、昆虫採集、スイカ割り、かき氷、流しそうめん、ビールと枝豆……は、まだ早いか。 八月最後の週には、陸上部の夏合宿だってある。砂浜でひたす...
2022.09.19 15:00『アルパカ国王とオメガ少年の青い空(獣人オメガバース)』アルパカ獣人(α)×人間の少年(Ω) 蹄が乾いた砂を踏みしめる音がする。 数日前から降り続いていた雨が、昨夜ようやく止んだ。喜び勇んで輝く太陽が濡れた地面の水分を奪い、色濃かった砂浜はあっという間に真っ白になった。その上を、一頭のアルパカが悠然と歩いている。 キャラメル色の毛を撫でながら、乾いた風が通り過ぎていく。味わうように、アルルンは目を細めた。「いい天気だ」「風が気持ちいいですね」「ああ、絶好の散歩日和だ」 アルルンの足元で、ジャンガリアンハムスターのジャンが答えた。それに続いたのが、スズメのスザク。共にアルルンの右腕と左腕を務める側近だ。 ライオンが百獣の王と呼ばれ、獣界に君臨していたのは、もう遠い昔の話。今、このヒュントヒェン島に王として君臨...
2022.09.14 15:00『シャケ茶漬けの誘惑』スパダリ社長×シャイな清掃員「やっと会えたね」 自分の手首を締め上げながら悠然と微笑む男を見上げ、羽衣は咽喉を鳴らした。「な……だ……」 なに。 だれ。 生まれる問いは唇を動かすが、言葉になる前に空気に溶け込んで消えてしまう。 ダークグレーのスリーピーススーツを驚くほどスマートに着こなしたその男は、鋭い視線を羽衣の上で固定したまま一歩距離を詰めてきた。歩幅は控えめだったがただならぬ圧を感じ、羽衣は早々に降参してしまいたくなる。 格上の相手を前に白旗を振り命乞いをするのは、原始時代から人間の脳にプログラムされている防衛本能だ。だから、恥ずかしいことではない。 なにせ不意を突かれた上に、今の羽衣は丸腰なのだ。唯一の頼みの綱であるスティック型の掃除機は、向こ...
2022.09.10 15:00『遅咲きΩのアナコンダ大作戦!(オメガバース)』股間が大蛇なα×発情期のないΩ すべての物事には個人差がある。TVショッピングの「もう手放せませんよね〜」という決まり文句に『※効果には個人差があります』と注意書きが添えられているのもそのためだ。 個人差――それは、平均的なアレやコレやを外れて生きなければならない者たちのために作られた言葉。 そして、若月太陽は、今まさにその〝個人差〟に翻弄されていた。「うっ……あっ……はっ、はぁ……っ」 なりふり構わず飛び込んだ個室の扉が、ガタガタと激しく揺れる。「な、なんでよりによって……今っ……なんだよ……!」 生まれたての子鹿のように震え、とうに限界を超えていた膝がガクンと崩れた。「ひぃっ!」 途端に後ろを不快感が襲い、太陽は悲鳴を上げる。 オメガは発情期になる...
2022.09.09 15:00『一年目と二年目のBL短編集』2019年と2020年に生まれた短編の詰め合わせ 金曜日の夜十時。雨でも晴れ曇りでも、俺は毎週そこに行く。『レッツCocoでウォッシュ!』 半年前にオープンしたコインランドリー。ふざけた店名だが最新型の除菌機能付き乾燥機が完備されているのと、自宅から徒歩三分という贅沢すぎる立地条件に絆され、俺はすぐに常連客になった。周辺に単身用のアパートが多いこともあり、雨の日には順番待ちになることもある。だがふいの小春日和となった今日、動いているのは一台だけだった。 そしてそこに、彼はいた。『見惚れる背中』より 新原明久は〝偽善者〟だ。 男だとわかっていて彼を好きになってしまった俺を哀れんでいる。本当は気持ち悪くてしょうがないくせに、必死に俺の気持ちを受け入れようと...