2023.12.27 15:00『愛しき花に、藍のくちづけを(戦国オメガバース)』戦国時代×オメガバース αは〝蝶〟、Ωは〝花〟と呼ばれ、それぞれ男児にのみ発現。屈強な身体に恵まれる蝶は、武家の当主を務め、その蝶の子を産み落とすことが花の男の本懐とされてきました。蝶の男の髪には鮮やかな挿し色が混じり、花の男は、その名の通り、瞳に花のような紋様を持って生まれてくるのが特徴です。『王道【多】世界オメガバースアンソロジー』(2023年4月・甘恋計画)に収録された表題作のほか、書下ろしのスピンオフ的続編2編をまとめました。若き城主(α)×幼馴染みの側室Ω 張り出した縁に立つと、頬を撫でていく風がほんのりと暖かい。たくさんの新しい生命が、芽吹くときを待ちあぐねているのだろう。夜の気配に混じって、時折、濃厚な春の香りが鼻腔をかすめていく。「秀虎...
2023.08.30 15:00『夏に恋した金魚』金魚すくい屋台の青年×失恋した大学生の夏祭りBL 向かい合わせに立ち並ぶ屋台の間を、こっちからとあっちから、人の波がぞろぞろと動いている。暗くなるまでは縦横無尽だった人の行き来にいつの間にか右側通行の暗黙の了解ができ上がっていて、気がつくと、一気に膨れ上がった群衆の中にすっぽりはまり込んでいた。方向転換するには、タイミングを見計らって突っ込んでいくしかない。 流れに身を任せたままどうしたものかと考えあぐねていたら、ふいに視界の斜め前方に人ひとり分の空間が見えた。意を決して身をひるがえし、できるだけ誰の足も踏まないよう隙間と隙間を渡り歩きながら、屋台列の終点を目指す。そうして目的地に到達すると、僕はほうっと息を吐いた。 八月もあっという間に最後の週末を迎...
2023.01.11 15:00『手出し無用!』百戦錬磨なヤンキー先輩×健気なアホの子の〝手出し無用!〟な純愛BL 山本珠莉の人生は、薔薇色だ。 青い空、白い雲。 子どもがクレヨンで塗りつぶしたような水色が、今日も良い一日になると教えてくれる。深呼吸すると、若葉の息吹に満ちた爽やかな空気で肺がいっぱいに膨らんだ。 両手を突き上げて伸びをすると、制服がガサゴソと音を立てた。学ランは窮屈だしすでに暑苦しくもあるけれど、あと一週間もすれば衣替えだ。やがて訪れる梅雨を乗り越えれば、いよいよ本格的な夏がやって来る。 七夕、プール開き、花火大会、盆踊り、キャンプ、肝試し、川遊び、昆虫採集、スイカ割り、かき氷、流しそうめん、ビールと枝豆……は、まだ早いか。 八月最後の週には、陸上部の夏合宿だってある。砂浜でひたす...
2022.09.27 15:00『年下αの劣情(オメガバース)』【年下α×年上Ω】ばかりを集めたオメガバース短編集 円らな瞳。 ムチムチの腕。 モチモチのほっぺ。 こぼれ落ちる涎で潤った唇。 耳が溶けてしまいそうなほど甘い音色で紡ぎ出される喃語。 生まれたての蕾が花開くように咲き誇る笑顔。 まさに、「かわいい……!」 の、宝庫だ。 「今、何ヶ月でしたっけ?」「四ヶ月」「もうそんななんだー、早いね」「目元がそっくり!」 もちろん赤ん坊は可愛いし、それを取り囲む女子たち――と、時々、男子――も、ものすごく可愛い。 だが、可愛いのベクトルが人とは違う方向を向いている尊文は、そんな彼らよりももっと……ずっと……なんなら、世界一可愛い存在を知っていた。「土橋課長」 眉間に皺を寄せたまま、土橋は目線を持ち上げた。直前までパソコ...
2022.09.19 15:00『アルパカ国王とオメガ少年の青い空(獣人オメガバース)』アルパカ獣人(α)×人間の少年(Ω) 蹄が乾いた砂を踏みしめる音がする。 数日前から降り続いていた雨が、昨夜ようやく止んだ。喜び勇んで輝く太陽が濡れた地面の水分を奪い、色濃かった砂浜はあっという間に真っ白になった。その上を、一頭のアルパカが悠然と歩いている。 キャラメル色の毛を撫でながら、乾いた風が通り過ぎていく。味わうように、アルルンは目を細めた。「いい天気だ」「風が気持ちいいですね」「ああ、絶好の散歩日和だ」 アルルンの足元で、ジャンガリアンハムスターのジャンが答えた。それに続いたのが、スズメのスザク。共にアルルンの右腕と左腕を務める側近だ。 ライオンが百獣の王と呼ばれ、獣界に君臨していたのは、もう遠い昔の話。今、このヒュントヒェン島に王として君臨...
2022.09.19 15:00『二階堂会長の特別授業♡』文武両道の生徒会長×帰国子女の一年生 ものすごく不快なことをされているのに、二階堂の広い背中は日和に不思議な安心感を与えてくる。頭の奥の方では、制服に皺をつけちゃいけない、と思うのに、日和は二階堂のブレザーにしがみついた手を解けなかった。「気持ちいいとこ、探そうな?」 慈しむような瞳で覗き込まれ、日和は息を呑んだ。なぜだろう。決して強要されているわけではないのに、二階堂の言葉には逆らうことができない。 こくん。 日和が小さく頷いた瞬間、二階堂の中指がズブリと日和の後孔を抉った。『二階堂会長の特別授業♡』より
2022.09.14 15:00『シャケ茶漬けの誘惑』スパダリ社長×シャイな清掃員「やっと会えたね」 自分の手首を締め上げながら悠然と微笑む男を見上げ、羽衣は咽喉を鳴らした。「な……だ……」 なに。 だれ。 生まれる問いは唇を動かすが、言葉になる前に空気に溶け込んで消えてしまう。 ダークグレーのスリーピーススーツを驚くほどスマートに着こなしたその男は、鋭い視線を羽衣の上で固定したまま一歩距離を詰めてきた。歩幅は控えめだったがただならぬ圧を感じ、羽衣は早々に降参してしまいたくなる。 格上の相手を前に白旗を振り命乞いをするのは、原始時代から人間の脳にプログラムされている防衛本能だ。だから、恥ずかしいことではない。 なにせ不意を突かれた上に、今の羽衣は丸腰なのだ。唯一の頼みの綱であるスティック型の掃除機は、向こ...
2022.09.10 15:00『遅咲きΩのアナコンダ大作戦!(オメガバース)』股間が大蛇なα×発情期のないΩ すべての物事には個人差がある。TVショッピングの「もう手放せませんよね〜」という決まり文句に『※効果には個人差があります』と注意書きが添えられているのもそのためだ。 個人差――それは、平均的なアレやコレやを外れて生きなければならない者たちのために作られた言葉。 そして、若月太陽は、今まさにその〝個人差〟に翻弄されていた。「うっ……あっ……はっ、はぁ……っ」 なりふり構わず飛び込んだ個室の扉が、ガタガタと激しく揺れる。「な、なんでよりによって……今っ……なんだよ……!」 生まれたての子鹿のように震え、とうに限界を超えていた膝がガクンと崩れた。「ひぃっ!」 途端に後ろを不快感が襲い、太陽は悲鳴を上げる。 オメガは発情期になる...
2022.09.09 15:00『一年目と二年目のBL短編集』2019年と2020年に生まれた短編の詰め合わせ 金曜日の夜十時。雨でも晴れ曇りでも、俺は毎週そこに行く。『レッツCocoでウォッシュ!』 半年前にオープンしたコインランドリー。ふざけた店名だが最新型の除菌機能付き乾燥機が完備されているのと、自宅から徒歩三分という贅沢すぎる立地条件に絆され、俺はすぐに常連客になった。周辺に単身用のアパートが多いこともあり、雨の日には順番待ちになることもある。だがふいの小春日和となった今日、動いているのは一台だけだった。 そしてそこに、彼はいた。『見惚れる背中』より 新原明久は〝偽善者〟だ。 男だとわかっていて彼を好きになってしまった俺を哀れんでいる。本当は気持ち悪くてしょうがないくせに、必死に俺の気持ちを受け入れようと...
2022.09.05 15:00『エサを与えないでください』高校生×高校生のあまずっぱい短編集 悪戯心というのは誰にでもあるモノだと思うのですヨ。でも僕の場合、ちょっとその使い方を間違えたというか。相手を間違えたというか。 一時間前―― 自他ともに認める野球部の敏腕マネージャーの僕は、部長の黒柳さんのサインをもらうべく、書類を持って疾走していました。伊達に黒柳さんと付き合ってるわけじゃないし、きっといるだろうな~とある程度の確信を持って、中庭に行ったわけです。でもまさか、黒柳さんがあんなことをしているとは思わなかったのですヨ。 だからある意味では、黒柳さんにも責任があるのです。だって人間は、意外性とかギャップに激弱な生き物なのですから! 黒柳さんは僕の一個上の先輩で、野球部の部長で、キャッチャーで、動物に例...
2022.09.04 15:00『幼きころ、大好きだったあの人は』戦国時代を懸命に生きた男たちの物語 ホーホケキョ。遠くで、鶯が鳴いた。 見上げた空が、紅色の息吹を纏ったたくさんの枝葉に縁どられている。雪解け水は小川のせせらぎとなって耳を癒やし、頬を撫でる風はほんのりと温かい。新しい季節が、もうすぐそこまでやってきていた。 乾いた空気を吸い胸を膨らませると、結わえた髪の先がふわりと揺れた。ふむ……と口先を尖らせ、しばし思案する。頭の中を駆け巡る言の葉をかき集め、生み出される響きを反芻した。「鶯の鳴きて見つめし春空の、青き思いに心弾みし」 ホーホケキョ。応えるように、鶯がまた鳴いた。 褒められたのか、けなされたのか。きっと後者だろうと見繕い、正直な春の使者を讃え、微笑んだ。「桜天兄上!」 けたたましい声が城の廊下に響き...
2022.08.20 15:00『HAREM』VRスコープを通して繋がる再会BL 繁華街の終点で、一人の男が立ち止まった。ライトアップされた店の看板が、男の整った顔立ちを浮き彫りにする。ダークウッドの扉は重かったが、力を込めると軋むことなく動いた。 街の雑踏とは質を異にする静かな空間が、男を迎え入れる。足を踏み入れるなり屈強な男に値踏みするように視線で全身を舐め回されるが、用心棒らしき彼は、ただ先を促すように顎を突き出しただけだった。 初めてのダンジョンに挑む勇者のように身震いしながら、受付カウンターへと足を進める。すると、タブレットの画面を熱心に覗き込んでいた蝶ネクタイの店員が来客に気づき、顔を上げた。「いらっしゃいませ。VRルーム『HAREM』へようこ……そ……」 貼り付けられていた営業スマイ...