2022.09.09 15:00『一年目と二年目のBL短編集』2019年と2020年に生まれた短編の詰め合わせ 金曜日の夜十時。雨でも晴れ曇りでも、俺は毎週そこに行く。『レッツCocoでウォッシュ!』 半年前にオープンしたコインランドリー。ふざけた店名だが最新型の除菌機能付き乾燥機が完備されているのと、自宅から徒歩三分という贅沢すぎる立地条件に絆され、俺はすぐに常連客になった。周辺に単身用のアパートが多いこともあり、雨の日には順番待ちになることもある。だがふいの小春日和となった今日、動いているのは一台だけだった。 そしてそこに、彼はいた。『見惚れる背中』より 新原明久は〝偽善者〟だ。 男だとわかっていて彼を好きになってしまった俺を哀れんでいる。本当は気持ち悪くてしょうがないくせに、必死に俺の気持ちを受け入れようと...
2022.09.05 15:00『エサを与えないでください』高校生×高校生のあまずっぱい短編集 悪戯心というのは誰にでもあるモノだと思うのですヨ。でも僕の場合、ちょっとその使い方を間違えたというか。相手を間違えたというか。 一時間前―― 自他ともに認める野球部の敏腕マネージャーの僕は、部長の黒柳さんのサインをもらうべく、書類を持って疾走していました。伊達に黒柳さんと付き合ってるわけじゃないし、きっといるだろうな~とある程度の確信を持って、中庭に行ったわけです。でもまさか、黒柳さんがあんなことをしているとは思わなかったのですヨ。 だからある意味では、黒柳さんにも責任があるのです。だって人間は、意外性とかギャップに激弱な生き物なのですから! 黒柳さんは僕の一個上の先輩で、野球部の部長で、キャッチャーで、動物に例...
2022.08.20 15:00『HAREM』VRスコープを通して繋がる再会BL 繁華街の終点で、一人の男が立ち止まった。ライトアップされた店の看板が、男の整った顔立ちを浮き彫りにする。ダークウッドの扉は重かったが、力を込めると軋むことなく動いた。 街の雑踏とは質を異にする静かな空間が、男を迎え入れる。足を踏み入れるなり屈強な男に値踏みするように視線で全身を舐め回されるが、用心棒らしき彼は、ただ先を促すように顎を突き出しただけだった。 初めてのダンジョンに挑む勇者のように身震いしながら、受付カウンターへと足を進める。すると、タブレットの画面を熱心に覗き込んでいた蝶ネクタイの店員が来客に気づき、顔を上げた。「いらっしゃいませ。VRルーム『HAREM』へようこ……そ……」 貼り付けられていた営業スマイ...