『HAREM』

VRスコープを通して繋がる再会BL

 繁華街の終点で、一人の男が立ち止まった。ライトアップされた店の看板が、男の整った顔立ちを浮き彫りにする。ダークウッドの扉は重かったが、力を込めると軋むことなく動いた。
 街の雑踏とは質を異にする静かな空間が、男を迎え入れる。足を踏み入れるなり屈強な男に値踏みするように視線で全身を舐め回されるが、用心棒らしき彼は、ただ先を促すように顎を突き出しただけだった。
 初めてのダンジョンに挑む勇者のように身震いしながら、受付カウンターへと足を進める。すると、タブレットの画面を熱心に覗き込んでいた蝶ネクタイの店員が来客に気づき、顔を上げた。

「いらっしゃいませ。VRルーム『HAREM』へようこ……そ……」

 貼り付けられていた営業スマイルが驚愕へ、そしてやがては満面の笑みへと形を変えていく。

「吉島さん、来てくれたんですね!」

 客の男は、ほうっと安堵の息を吐いた。服装が記憶と違いすぎて自信がなかったが、それは確かにかつての同僚、黒米出だった。

「久しぶり。元気そうだな」

「おかげさまで。吉島さんも……」

 途切れた言葉が、労るような苦笑に変わる。激務にかまけて食事や睡眠を犠牲にしてきた結果が、きっとひどい色になって顔に出ているのだろう。

 取り繕おうともしない黒米の正直さを懐かしく思いながら、吉島は目尻を下げた。

『一、吉島享俊の場合』より


 繁華街の終点にある『HAREM』は、叶わない夢が現実になる場所。VRスコープが脳波の動きを読み取り、思い描いたままの世界がバーチャル・リアルティとなって目の前に現れるのだ。

【吉島&黒米編】

 吉島亨俊は、仕事帰りにふらりと『HAREM』を訪れた。かつて吉島の同僚だった黒米出は、店員として彼の来店を歓迎する。

 吉島がVRで再会したのは、高校時代の恋人、ブライス。懐かしい思い出を辿りながら、彼への思いを再確認する吉島。だがやがて、交わしたはずのない言葉が、ブライスの口から漏れ始める。

 一方黒米は、23歳でこの世を去った兄に思いを馳せていた。

【清史郎&彩葉編】

 星清史郎は、悩んでいた。いくら女の子を抱いても、ある思いを消すことができない。それは、小さい頃に父親の思いがけない姿を目撃してしまったことが原因だった。

 清史郎の幼馴染みの朝比奈彩葉もまた、悩んでいた。小さい頃のある体験をきっかけに、性癖が歪んでしまったのだ。

 そんな二人が2年半ぶりに再会し、VR体験を通して互いの秘めた思いを知る。

●表紙/とめい島 ●発行日/2022年8月21日 ●文字数/約36,000 ●399円(読み放題/Unlimited対象)

0コメント

  • 1000 / 1000