『年下αの劣情(オメガバース)』

【年下α×年上Ω】ばかりを集めたオメガバース短編集

 円らな瞳。
 ムチムチの腕。
 モチモチのほっぺ。

 こぼれ落ちる涎で潤った唇。

 耳が溶けてしまいそうなほど甘い音色で紡ぎ出される喃語。

 生まれたての蕾が花開くように咲き誇る笑顔。

 まさに、

「かわいい……!」

 の、宝庫だ。

 

「今、何ヶ月でしたっけ?」

「四ヶ月」

「もうそんななんだー、早いね」

「目元がそっくり!」

 もちろん赤ん坊は可愛いし、それを取り囲む女子たち――と、時々、男子――も、ものすごく可愛い。

 だが、可愛いのベクトルが人とは違う方向を向いている尊文は、そんな彼らよりももっと……ずっと……なんなら、世界一可愛い存在を知っていた。

「土橋課長」

 眉間に皺を寄せたまま、土橋は目線を持ち上げた。直前までパソコンのモニターと睨めっこしていたせいで、黒縁眼鏡の奥にあるふたつの目が、必然的に上目遣いになる。

 色濃い瞳の中心に、自分の姿が閉じ込められている――たったそれだけのことが、尊文の脈拍を乱した。

「どうした、芦田」

 穏やかな声が、控えめに尊文を呼ぶ。数時間前とは、まったく違う呼び方で。

 尊文は後ろを振り返り、同僚たちが今だ小さな訪問者に気を取られているのを確認する。そして、土橋に向き直ると、口の端を上げた。

「ちょっと休憩しませんか?」

『芦田尊文の劣情』より


 子どもが欲しいα×まったく興味のないΩ、Ωの兄を持つ部下×女神と呼ばれる上司、α初のおまわりさん×シングルファーザーの会社員……など、6組の【年下α×年下Ω】の物語です。

 Web未公開の書き下ろし2編を含む、全9編をまとめました。

●表紙/三谷玲 ●発行日/2022年9月28日 ●文字数/約94,000 ●999円(読み放題/Unlimited対象)

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