『手出し無用!』

百戦錬磨なヤンキー先輩×健気なアホの子の〝手出し無用!〟な純愛BL

 山本珠莉の人生は、薔薇色だ。
 青い空、白い雲。
 子どもがクレヨンで塗りつぶしたような水色が、今日も良い一日になると教えてくれる。深呼吸すると、若葉の息吹に満ちた爽やかな空気で肺がいっぱいに膨らんだ。

 両手を突き上げて伸びをすると、制服がガサゴソと音を立てた。学ランは窮屈だしすでに暑苦しくもあるけれど、あと一週間もすれば衣替えだ。やがて訪れる梅雨を乗り越えれば、いよいよ本格的な夏がやって来る。

 七夕、プール開き、花火大会、盆踊り、キャンプ、肝試し、川遊び、昆虫採集、スイカ割り、かき氷、流しそうめん、ビールと枝豆……は、まだ早いか。

 八月最後の週には、陸上部の夏合宿だってある。砂浜でひたすらに走り込むトレーニングは過酷を極めるけれど、いつでも海に飛び込めるという最高級の特典付き。想像するだけでわくわくする。

 だが、珠莉にとってこれらはすべて前菜に過ぎない。

 そう。

 彼にとってのメインディッシュは――

 あ、いた!

「映介先輩!」

『手出し無用!』より


 山本珠莉の人生は、薔薇色だ。青い空、白い雲。視線の先には、大好きな先輩の姿。一年越しの片思いを実らせた珠莉の世界は、まさに薔薇色……いいや、虹色に輝いていた――のに。

「映介のヤツ、まだお前に手ぇ出してないんだってな?」

 そのひと言が、珠莉のハッピーライフをどん底ブルーに変えた。

「どうして、ぼくに手を出してくれないの……?」

 果たして、珠莉は映介に〝手を出して〟もらうことができるのか――!

『アホの子BLアンソロジー~愛しのおばかさん~』(2021年7月発行)収録の表題作と、番外SSをまとめました。

●表紙/三谷玲 ●発行日/2023年1月12日 ●文字数/約29,000 ●299円(読み放題/Unlimited対象)

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