『俺たちの平行線』

コンビニ店員×エリートリーマンの笑いと涙とエロスと愛の物語

「薄情だな」
「えっ?」
「同じビルで働いてて定時も同じなのにさっさと帰るなよ」

「え、あ、ご、めんなさい……?」

 曖昧に謝ると、神崎さんは柔らかく苦笑した。あ、その笑い方もかっこいい……じゃ、なくて。

 なんで神崎さんがここにいるんだ?

 仕事は?

 神崎さんは薄い水色のネクタイをまとめもせず、そのまま鞄に突っ込んだ。端っこが収まり切らずにちょっとはみ出している。改めて見ると、いかにも適当に上着を引っ掛けてとりあえず鞄をひっ掴んで走ってきました、という出で立ちだ。

 もしかして、定時と同時に慌てて出てきてくれたんだろうか。俺に会うために? もしかして、神崎さんも同じように思ってくれていたんだろうか。会いたい――って。

「佐藤くん、今日これから時間ある?」

「は、はい、あります」

「よかった。一緒に夕飯食べないか?」

「へっ?」

「今日は親子丼が食べたい」

「親子丼……」

「佐藤くん、作って」

「……はい!?」

「とりあえず材料だよな。要るものわかる?」

「ま、まあ、だいたいは……」

「じゃあ買い物してから帰るか」

「え、あ、はい」

「親子丼って鶏肉と卵?」

「そう、ですね」

「やっぱり。豚肉だと親子にならないもんな」

「豚肉だと他人丼ですね」

「ふぅん、あるにはあるのか」

「あ、親子丼の場合は、肉はもも肉がいいと思いますよ。弾力があるから柔らかい溶き卵と相性がいいんです」

「よし、じゃあもも肉を買いに行くぞ!」

「はい!」

 ……って、張り切って返事してる場合か! 神崎さんも親子丼だけでそこまではしゃがないで! 興奮するから……じゃ、なくて!

「あの、神崎さん」

「ん?」

 うわ、至近距離の笑顔が眩しい!

「あ、えーと、その、今朝、コーヒー買ったんですか?」

「えっ?」

「宮下さ……先輩が、神崎さんを見たって言ってました」

「あー……うん、買った、な」

「珍しいですね、朝もコンビニなんて」

「あー……うん、そうだな。珍しい、かも、な」

 急に神崎さんの歯切れが悪くなった。淡い期待でしかなかったものが、だんだん確信に変わっていく。

「あ、あの、違ったらごめんなさい。それってもしかして、俺に会いに来てくれた、とか、ですか?」

「えっ」

 ボッ。絶対、そんな音がした。

『2-1:午前8時の逢瀬』より

 俺は今、
「や、やめっ……も、許して……っ」
「だめです」

 取引先の社員に襲われている。

 うつ伏せに押し倒された身体は、両腕を背中で縛り上げられているせいでまともに動かすことができない。なんとか全身を使ってベッドからずり落ちようとすると、大きな手に後頭部を押さえつけられ阻止される。

 体格差を惜しみなく活かして俺の身体をがっちりホールドしたその男は、いきなり俺のズボンをずり下げた。そして割れ目に突き立っていたそれを、ゆっくりと回転させ始める。

「神崎さん」

「あっ、は、ぁ……」

「あんたのミスで工期が遅れたんですよ。どれだけの損害出したかわかってる?」

「お、俺はなにもしてな……っ」

「ふうん、まだ認めないんですね。思ったより強情だ」

 男は喉の奥で笑うと、奥深くまで埋もれていたそれを一気に引きずり出した。ものすごい勢いで内臓がひっくり返される。身体が勝手に飛び上がった。

 男は乾いた息を鼻から吐き出し、たくさんのボールが繋がったそれを俺の目の前に散らつかせてくる。

「神崎さんって淫乱なんですね。こんな長いの、しっかり咥えて感じちゃうなんて」

「う、るさい! も、やめろよぉ……っ」

「そんな口きいていいと思ってるんですか?」

 忌々しそうに唇を歪め、男が再びそれを挿入してきた。徐々に大きくなるボールが、ひとつ、またひとつと、内壁を強引に押し拡げていく。

「佐藤くんっ……あ、あ、ああ!」

「気安く呼ばないでください」

「あっ……ああ……っ!」

 佐藤くんは、時々ものすごく変態だと思う。

『閑話:午後8時のロールプレイ』より


 オフィスビルの中にあるコンビニで働く佐藤は、週3日昼休みに訪れては、必ずカルボナーラを買っていくサラリーマンの神崎が気になってしょうがない。見ているだけだった佐藤に、神崎と話せる大きなチャンスが訪れて……!?

●表紙/春宮ゆずこ ●完結/2019年11月12日 ●文字数/約47万字


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