金魚すくい屋台の青年×失恋した大学生の夏祭りBL
向かい合わせに立ち並ぶ屋台の間を、こっちからとあっちから、人の波がぞろぞろと動いている。暗くなるまでは縦横無尽だった人の行き来にいつの間にか右側通行の暗黙の了解ができ上がっていて、気がつくと、一気に膨れ上がった群衆の中にすっぽりはまり込んでいた。方向転換するには、タイミングを見計らって突っ込んでいくしかない。
流れに身を任せたままどうしたものかと考えあぐねていたら、ふいに視界の斜め前方に人ひとり分の空間が見えた。意を決して身をひるがえし、できるだけ誰の足も踏まないよう隙間と隙間を渡り歩きながら、屋台列の終点を目指す。そうして目的地に到達すると、僕はほうっと息を吐いた。
八月もあっという間に最後の週末を迎え、夏の終わりを感じるようになってきた。少し動いただけで額に汗がにじむほどの猛暑には変わりなくても、日が落ちてからの空気は明らかに違う。つい一週間前にはまだ明るかった西の空に、すでに夜の帳が下りてきている。オレンジ色と藍色の境目が、とてもきれいだ。
『夏に恋した金魚』より
8月最後の週末、幸春は、近所の公園で開催されている夏祭りにやってきていた。楽しそうに行き交う人たちを見守りながら、幸春は、ひとり、別れた恋人との思い出ばかりを探してしまう。ついに涙を堪えられなくなりきびすを返すと、金魚すくい屋台の青年と目が合った。
彼は、三匹の金魚と一緒に、時間と場所の書かれたメモを幸春に手渡す。迷いながらも幸春が青年に会いに行くと、余命僅かな自分のために、残りの夏休みをくれと言われーー?
●発行日/2023年8月31日 ●文字数/約12,000 ●199円(読み放題/Unlimited対象)
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