2023.12.27 15:00『愛しき花に、藍のくちづけを(戦国オメガバース)』戦国時代×オメガバース αは〝蝶〟、Ωは〝花〟と呼ばれ、それぞれ男児にのみ発現。屈強な身体に恵まれる蝶は、武家の当主を務め、その蝶の子を産み落とすことが花の男の本懐とされてきました。蝶の男の髪には鮮やかな挿し色が混じり、花の男は、その名の通り、瞳に花のような紋様を持って生まれてくるのが特徴です。『王道【多】世界オメガバースアンソロジー』(2023年4月・甘恋計画)に収録された表題作のほか、書下ろしのスピンオフ的続編2編をまとめました。若き城主(α)×幼馴染みの側室Ω 張り出した縁に立つと、頬を撫でていく風がほんのりと暖かい。たくさんの新しい生命が、芽吹くときを待ちあぐねているのだろう。夜の気配に混じって、時折、濃厚な春の香りが鼻腔をかすめていく。「秀虎...
2022.09.04 15:00『幼きころ、大好きだったあの人は』戦国時代を懸命に生きた男たちの物語 ホーホケキョ。遠くで、鶯が鳴いた。 見上げた空が、紅色の息吹を纏ったたくさんの枝葉に縁どられている。雪解け水は小川のせせらぎとなって耳を癒やし、頬を撫でる風はほんのりと温かい。新しい季節が、もうすぐそこまでやってきていた。 乾いた空気を吸い胸を膨らませると、結わえた髪の先がふわりと揺れた。ふむ……と口先を尖らせ、しばし思案する。頭の中を駆け巡る言の葉をかき集め、生み出される響きを反芻した。「鶯の鳴きて見つめし春空の、青き思いに心弾みし」 ホーホケキョ。応えるように、鶯がまた鳴いた。 褒められたのか、けなされたのか。きっと後者だろうと見繕い、正直な春の使者を讃え、微笑んだ。「桜天兄上!」 けたたましい声が城の廊下に響き...